霊園・仏事の知っ得コラム

長江曜子連載

生死の境を越えるには・・・

2010年11月30日

 今話題の白寿の女性詩人柴田トヨさんをご存知でしょうか。処女詩集『くじけないで』は、刊行以来70万部を越え売れ続けています。白寿とは、99歳のこと。百歳より一歳少ないから、「百→白」寿ということになります。女性の表現者、作家においては、60歳を越えると伸びが大きい。「大きく化ける」と、明大大学院で指導していただいたO先生からうかがったのが、今から30年以上前の話です。宇野千代、野上禰生子、瀬戸内寂聴等々、枚挙にいとまがない。確かに、その通りだなあと、同性の私は、心からO先生の真理の言葉に納得すると共に、あと3年後の還暦を心待ちにしています。

 しかし、この柴田トヨさんの出現は驚きだった。妹の経営する茨城県守谷市駅前の歯科医院の待合室で、はじめて読んだトヨさんの詩は、透明な無欲な魂が感じられました。「素直で、かわいらしいお祖母ちゃん」であり、「素敵な女性」なのです。当時まだ爆発的なTVでのブームは起きていなかった。しかし、「この詩集は、必ずベストセラーになる。」と確信しました。

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 小さな詩集には、トヨさんの人生がすっぽり表現されていました。足が痛くなって日舞が踊れなくなったトヨさんに、詩を書くことをすすめてくれた息子さん。90歳を越して、夫が旅立った後久しく一人生活をしているトヨさん。泣き言を言わず、息子さんが帰る時には、笑顔で見送る。本音をさらりと詩に表現する「素直」がすごい。先に旅立った御主人のお墓も大切にしています。

 トヨさんは、色んな不幸に見まわれたにもかかわらず、どんなにくじけそうな時にも、多くの人間に「くじけないで」とエールを送っているのです。命が燃え尽きるまで、夫の元に旅立つまで、先に逝った御主人には、「少し待っていてね」と言える。そんな、あたり前の息子を愛し、御主人を愛しているトヨさん。「夢は平等に見られるのよ 私辛いことがあったけど 生きていてよかった」の言葉は、生ききった後に、死を越える覚悟ある見事さだ。

profile
長江 曜子(日本初のお墓プランナー)

死にまつわるデス・ケアサービスの葬送アドバイザー
聖徳大学教授博士(学術)
世界45カ国を旅し、お墓の比較研究をし、アメリカのお墓大学を卒業。墓石・霊園行政研究、文化人類学的視点で比較研究すると共に、個人のお墓から霊園設計・納骨堂設計等ライフプランニングのアドバザー(コーディネーター)を務める。
 また、大学においては、生涯教育(SOA)人気シリーズ「食の松戸物語」のコーディネーターを務めるとともに、寮の食事改善策を地域食材導入の試みをしている。

長江 曜子